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3. 大阪湾の環境創造の考え方と方針

大阪湾においては、沿岸陸域の人口密度が高く、後背地域に可住地が少ない(関西圏の可住地面積は関東圏の約45%にすぎない)ため、発展に伴う開発圧力は必然的に海域へ向けられてきた。その逆に、沿岸陸域にとっては、利用しやすい海域をもっていたことが発展の基盤となったとも言える。
このような歴史的過程は、今日の日本の礎を築くうえで極めて当然の推移であり、否定されるべきものではなく、今後とも大阪湾の活用が不可欠であることも確認しなければならないただし、私達は、陸域側の都合のみを優先させてきた従来の大阪湾の清閑から、多くの教訓を得てきたことを強く認識しておかなければならない。
このような状況は、何も大阪湾に限ったことではなく、世界中の閉鎖性海域において、沿岸陸域への人口集中と工業化、海域のことを考えない人間活動の結果として海域環境が悪化している。1992年の.環境と開発に関する国連会議(地球サミット)、では、サステナブル・デベロップメント(Sustainable Development)という極めて重要な概念が採択され、その採択文書『Agenda21』では、沿岸域環境に多くの頁数があてられている。
従来、大阪湾については、保全か開発かの議論が繰り返されてきたが、その二元論でのみ大阪湾を語る時は、既に過ぎ去っている。大阪湾全体の特性と大阪湾内各海域の特性、大阪湾と沿岸陸域を合わせた大阪湾沿岸域の特性等を踏まえつつ、サステナブル・デベロップメントの具体策を考えていくべき時期と言える。
大阪湾においては、環境保全と環境創造を両立させていくために、次の?〜?に示す考え方を基本として、Fig-2に示す方針に沿って具体的対応を図ることが望まれる。
?生物・生態系にとって望ましい環境が残されている海域(例えば、紀淡海峡とその周辺海域)は、積極的に保全すること。
?特定海域の生物・生態系の維持のみならず、大阪湾全体の生物・生態系の拡大への寄与のために、特定海域の機能修復や機能強化が望まれる海域(例えば、浅場と藻場が残っている泉南沿岸海域、淡路島沿岸海域、神戸市西部沿岸海域)は、積極的に保全と創造の双方の対策を講じること。
?生物・生態系にとって望ましくない環境の海域(湾奥部の殆どがそのような海域と考えられる)に対しては、積極的な環境創造を図ることなお、望ましい、望ましくない、といった評価については、今後の十分な検証が待たれる。
そして、大阪湾の環境創造にあたっては、生物種と生物量を拡大すること、多くの浅場と水際線の多様性を確保すること、水質・底質を浄化すること、自然浄化機能を回復すること、陸域からの負荷を削減すること、人々と大阪湾とのかかわりを取り戻すこと、大阪湾と共生し人々が豊かに暮らす都市を構築すること等々の総合的な目標を掲げ、着実に実行に移していくことが求められる。

4. 大阪湾の環境創造構想-マリン・コリドール

大阪湾新社会基盤研究会では、上記の大阪湾における環境創造とともに、交通・物流・環境創造等のシステムを内包して大阪湾の海底を一周する大型共同溝:コリドールラインと環境共生型海上都市:コリドールリンクによって構成するメガ・インフラストラクチャーであり、21世紀地球社会の智慧の都「関西」の形成、大阪湾の環境創造、大阪湾環状都市の構築に資する「マリン・ゴリドール」の研究を進めてきた(Fig−3参照)。

 

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Fig−3. Image of the Marine Corridor 1)

 

4−1. マリン・コリドールのアプローチ視点
Fig−4のマリン・コリドール構想の策定にあたっては、上記のような問題点、解決方向等を踏まえ、次の5つのアプローチ視点を設定している。
グローバルレベルでは、地球上の多くの場所で問題となっている閉鎖性海域における環境改善・環境創造のモデルをつくっていくことが求められる、また、人類と地球のための新しい都市像の提示が求められる。

 

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Fig-4. The Marine Corridor and Linkage 1)

 

 

 

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